超浮力系&浮力+系サーフボードへの考え方
2010年ほどから、世界トップのメーカーからも
”超浮力系ボード”
と言う新しいジャンルのボードが出されました。それに後追いをしてのカテゴライズとして弊社は
”浮力+系ボード”
という新しい定義のサーフボードを出しています。1990年代までショートボードは、生粋のハイパフォーマンスボードブームだったのとはまるで異なるサーフボードのトレンド。薄くて、細くて、ロッカーの強いボードとは全く別のデザインコンセプトボードですが、こういったボードが生まれてくるには歴史的背景があります。
ここでは、世界のサーフィン資料を分析しながら個人的な意見も加えて
”なぜ超浮力系&浮力+α系ボード”
が誕生したかを考察してみたいと思います。そしてどんなニーズを持つサーファーにそういったボードが適しているかも最後に考えてみましょう。
浮力系ボードが誕生する歴史的背景 |
1980年代後半から1990年代にかけて起こったショートボードショートボードレボリューション。ボードはどんどん幅が狭くなり、まるでバナナのようにロッカーも反って(強く)いきました。今では考えられないサイズです。
例えば
6’2”-17 1/2”-2
とか言うまるでポテトチップのように薄いショートボードがメインとなっていきました。1990年代から2012年くらいまで、世界のトップに君臨してきたKingこと”Kelly Slater”が、1990年代のショートボードレボリューションの牽引役の一人でもありました。
1990年代のボードは、ノーズとテールの幅も最小でペラペラです。今では考えられないデザインです。確かにこういったボードは、動きは良いでしょう。ですが、ボードからスピードを出すことが難しく、乗り手のサーファーの高い能力を必要としました。波の力のあるエリアにボードを運ぶ必要があり、常にボードを踏み込んで動かしていないと失速してしまうためです。
またロッカーが強く、薄いサーフボードは波の力を必要とします。日本のアベレージサイズでは、一般人には乗れない・乗ってもスピードが出ないなど様々な障害がありました。
プロはその要求度の高いボードに対して対応が可能でした。サーフィンすることが職業のプロだから当たり前と言えば当たり前です。問題はこういったバナナ&ポテトチップスボードを、一般サーファーに提供してしまったメーカー側にありました。また、ユーザー側もこういった超ハイスペックなボードを求めてしまったという過ちもあります。
今やこの時代のボードを触ると、誰もが
”こんなボードに乗っていたのか!”
とビックリすることでしょうが、当時はこれがノーマルだったのです。高いレベルのユーザーを除き、多くの一般ユーザーは
”なかなか波に乗れないけど、これがショートボードの世界なのだ”
と半ばショートボードはサーフィンで最難関の修業的な感覚すら持ってしまったのです。辛いこと=美徳と考えてしまった方もいると聞きます。
短く・幅広・ボリュームありのパフォーマンスボードの誕生 |
そんな中、カリフォルニアのシェイパーらは
”この流れは明らかにおかしい”
と違和感を感じていたシェイパー達もいます。
弊社の取引先の例を一つ出すと、Robert Weinerです。ロッカー強く、ペラペラ系ボードは、プロであれば乗りこなせるけど、一般サーファーには難しくてうまく乗れない(乗りこなせない)というフィードバックも多く受けていたそうです。そういった要求を受けて、彼自身1990年代には、すでに今でも人気の高いWhite Diamondシリーズの原型となるボードをWild Catという名前でシェイプしていました。
そのボードは通常のボードより5インチも短く、そして幅があり、レールボリュームもあります。一見するとアウトラインは1980年代初頭にあったショートボードのようなアウトラインです。ですが、Robert Weinerは当時としてはこの手のボードは革新的アイデアを入れていました。
そのデザインとは??
”アウトラインは1980年代初頭のクラシカルなものだが、そのアウトラインに当時の最新のロッカーとコンケーブをチューンナップしてボードに入れていた”
ということでした。そんな彼のボードは、先進的なものを取り入れて、他国より”見た目より実用”というプラグマティズムが主流のアメリカで大人気となりました。この幅広・短め・ボリュームありのボードから、さまざまなタイプのボードも開発されています。
Robert曰く、
”今までは自分のサーフィンの能力を過大評価しすぎていて、プロが乗るような薄いボードに一般サーファーが乗っていた。アメリカ人もついに自分のサーフレベルについてわかってきた。自分のレベルにあった、適正なボードに乗ることがサーフィンの楽しみを最大にする。”
と発言しています。
斬新的なボードに対して寛容なアメリカでさえ、サーファーはかなり保守的なのです。他国ではまだまだ時間はかかるかもしれませんが、この流れは確実に私達に影響をあたえることでしょう。
超浮力系ボード |
超浮力ボードの登場背景は、以下だと推測します。これは弊社のスタッフとお客様との話のみからの推測であり、絶対的かつ客観的に証明されているものではありませんので、それはご了承ください。ちなみに弊社のお客様はほとんどロングボードはやりません。ですので、そのようなお客様方の意見がメインと考えていただければ幸いです。
もちろんアメリカと日本では状況が若干異なるのですが、浮力アップボードが出てきた基本的なコンセプトは以下のようになるでしょう。
サーフィン長く続けてくると、年齢も上がり、そして社会的な地位も変わってくる。以前はサーフィンのみに打ち込めていたのだが、仕事・家庭などでの責任が重くなってくるに従って、サーフィンの時間も減ってくるし、体力も落ちてくる。サーフィンも週末のみや週に1〜2回程度となる。だが、サーフィンを好きということは変わらず、いい波に乗りたい。でもやはるキッズや若いサーファーには体力で負けてしまい、波取やパドリングでは勝てない。波に乗れればそこそこなんだけど・・・”
そんなジレンマを、解決するために開発されたのが超浮力系や浮力+アルファ系ジャンルのボードです。
つまりパドルとテイクオフがイージーなボードに乗り、それでいてその気になればある程度動かすことが出来るデザインです。
重要なのは、長年ショートを経験してショートボーダーにこだわりがある方は、ファンボードやロングボードには乗りたく無いという点です。ファンやロングは確かに波をとる力は強いですが、長く・幅広・そして厚いボードを動かすのは、ショートボードのそれとはかなり異なる技術が必要です。
そしてファンやロングは、ショートボードと比較してかさばり・重くなります。更には、ロングやファンなどの取り回しがゆったりのボードは、波がポイントブレイクなどの長めに乗れて、規則的な波のほうがより楽しめるのはお分かりでしょう。
反対にショルダーの短い・ショートなビーチブレイクで、波の乗りしろが少ない波はどうでしょう?例えばすぐにクローズアウトしてしまうダンパー気味な波だったり?
これらの波だと、技術が卓越していないロングやファンだと
”ただ乗るだけ・横に走ってすぐ終わり”
になり、確かに最初は乗れて楽しいのですが、すぐに”乗るだけの感覚”にショートボーダーは飽きてしまうのです。
もともとショートボードの醍醐味は、乗った後のクイックながら伸びのあるターンやドライブ感覚。そして、狭いエリアでも動かせる小回りが効いて、スパイスがある乗り味。そしてスピード感です。そんな感覚を常に味わっている僕らは、波に乗るのならば、テイクオフして1アクションくらいしたいと思うのです。
ショートかつ、パワーレスで小さな波は、通常のハイパフォーマンスボードでは一般サーファーにはかなり厳しいです。波のパワーゾーンが小さくて・波の押しも弱くなります。パドル力/パドルスピード/テイクオフ技術に劣る一般サーファーには、難しいコンデションです。私達は、生きの良いジュニアサーファーやプロがこういった小波でもバンバンと波に乗っているのを見て
”凄いなー。うまいなー”
と感心します。または、ガツガツと波を追うロングやファンボードのテイクオフ能力の高さを見て
”なんだよ〜俺の近くにいないで欲しい”
と半ば逆切れのような、または自分が波に乗れないから起こる嫉妬心にも似ている感情を抱いたりします。
実際はロングやファンと同じテイクオフ(乗り手のレベルが同じとして)はショートでは無理です。ですが、通常のショートより圧倒的に楽なパドル・早いテイクオフを実現したいのです。
そして乗ればハイパフォーマンスボードと全く同じようなバシバシアクションとはいかないものの、その気になればショートチックなターンが出来るボードが希望となります。テイクオフが早くて動くボード・・・そんな矛盾する要素を兼ね備えたデザイン・素材。
そんな彼らが求める製品はかなりハードルの高いサーフボードです。
言うのは簡単ですが、実現はかなり難しいデザインです。先ほども述べましたが、
テイクオフが驚くほど速く、それなりに動くボード
と言う相反する要素をサーフボードのデザインに求めています。レトロボードでは確かにテイクオフは早いけど、ターンをしようとした瞬間に
”あああーーー全然曲がらない”
というロングやファンに乗った場合に似た感覚を味わうことでしょう。彼らが求めているのは浮力を増して・アウトラインを広くして・フォームを多くして・フラットボトムからVEEにするようなボードでは無いのです。
フラット TO VEEかつ厚めのボードは確かに扱いやすいですが、モダンなコンケーブが入ったボードほどの生き生きとした乗り味は出せません。私たちはコンケーブの効いたボードに乗りたいのです。
もちろんフラットボトムの優れた点ありますし、それを否定することではありません。ですが、通常のショートに乗ってきた方がそういったフラットなボトムのボードに乗ると、乗り味も波に浮いているような単調な感覚を覚える方もいることも確かです。
そういった点を改良するために、超浮力ボードであっても多少なりともコンケーブの効いたボードをデザインするシェイパーが最近はたくさんいます。乗ってみても、コンケーブの入ったハイパフォーマンスボードからの移行もこちらのほうがすんなりと行くのです。
超浮力系は、一般サーファーで体力が劣ってきた方々かつやはりショートボードの醍醐味をよりイージーに味わいたいという要求によって生まれました。
今まででは考えられないほどの浮力による簡単な波のキャッチ能力と、トップシェイパーの知識を生かしたバランスの良さ・そして、見た目はそれなりにショートで、その気になればリップも出来てしまうという今までの細くて・薄くて・ロッカーの強いショートの概念を突き破ったものなのでした。
乗り味もコンケーブの効いたフィーリングで、ボードを踏み込むたびにスピードが出ます。フラットボトムのような乗り味がノッペリとしたボードではありません。
極めつけは、その優れたデザインを飛躍的に向上させるフィンや素材。素材は通常のPUではなく、より高度かつ高価な技術を要求されるエポキシ素材巻きが、浮力系ボードの素晴らしさを更に高めました。エポキシ素材ボードは、PU素材よりも軽いのに、それでいて丈夫でスピードも出ます。軽いから取り回しも良いというデザイン×素材の今までと比較して異次元のコラボが誕生したのです。
浮力+α系ボード |
超浮力ボードは、年齢を重ねた・週末や趣味としてサーフィンをするサーファーにとっては、まさにうってつけのボードとなりました。当然多くの人気を獲得したのです。しかしながら、この手のボードが合わない方も出てきました。
超浮力ボードは確かに浮力はあるのですが、乗った後にかなり浮かされてしまう感覚があります。レールも概してかなり厚いために、ターンでも苦労する方もいます。そしてボードの反応がややゆっくりなので、それほど自分の意図した場所にボードを当て込めないというネガティブな側面も見せます。
このようなフィードバックから、弊社では近年新しいジャンルのボードを提唱しています。
それは
浮力+α系ボード
です。浮力+α系ボードとは、簡単に言えば超浮力系とスタンダードな浮力との中間の浮力をもつ板です。それは、スタンダードハイパフォーマンスショートほどは動かないのですが、テイクオフは劇的に早めていて、超浮力系ほどはもっさりとしないシャキシャキとした動きが出せるボードなのです。そしてハイパフォーマンスボードではチト辛い小波でもテイクオフがスムーズで、乗った後も走りが断然に良いのです。
この手の浮力+α系ボードは、超浮力系やハイパフォーマンスボードとは違った楽しみが味わえます。超浮力系ほどは楽ではありまえせんが、それなりに楽なボードです。ハイパフォーマンスボードほどは動きませんが、結構動かせます。一般サーファーが使うには、十分なパフォーマンス性能があります。
普段はパフォーマンスボードに乗る方の疲れた後の2ラウンド目用や、混雑時バスター。少しお年を召された方へのパフォーマンスボード、そしてハイパフォーマンスボードでは少しハードルが高いと感じる一般サーファーまでを魅了してくれるジャンルボードです。
カリフォルニアからのデザインを基にして始まったとも言える
浮力有り目ボード
サーフィン=ライフスタイルのカリフォルニアならではの考えより生み出されたこのデザインは、今や世界中にそのトレンドが広まりつつあります。
問題は世界中の多くがコピーキャット(単なる完全コピー)をして、テストも何もされず、素材も考えられないまま見た目のみ浮力系というボードが世の中にあふれていることです。サーフボードの本当の性能の差は、小さな細部に宿っているのは私達プロからしたら当然なの事実なのですが、市場には作りこみの甘いボードが多数あるのも事実です。
なにもニーズが無いところから、売れ筋を単にコピーするという作業しかしていないいい加減なメーカー商品は性能の面でも深みが無いのは当たり前ですが、消費者はなかなか見分けが付きません。単なる見かけや価格だけでなく、そのサーフボードにあるストーリー(つまりニーズによって生み出された過程・プロセス)を適切にかぎ分ける能力が私達にも必要となるのです。